鼻なおし

語り(歌い)手・伝承者:大田市富山町山中  渡辺 休二郎さん・明治40年(1907年)生

 昔々あるところに、ちょうどおまえたちみたいな、かわいげな女の子がおったそうです。
 ところが、それがかわいそうなことに鼻が低かったので、その子のお母さんが何とかして、鼻を高くしてやろうと、いつも心配していたら、ある日のこと、ちょうど鼻なおしがやって来ました。
「鼻なおしいい。鼻なおしい」と門を通ったので、
-こら、ええことだなあ-と思って、
「鼻なおしさん。この子は鼻が低うてやれんで、何かでなおいてもらわれせんかな」
「さあ、何でなおしましょうかな。ここにちょうど飴(あめ)がああけん、飴でなおいちょきましょう」
 それで、飴でなおしてもらったら、甘いので、やっぱりこう舌を出しては、鼻をなめて、とうとうまた鼻がなくなってしまいました。
-こら困ったことだなあ-と思っていますと、また、二、三日したら、
「鼻なおしいい。鼻なおしい」と鼻なおしが門を通りました。
 そこでお母さんが、
「鼻なおしさん、鼻なおしさん。飴でなおしてもろうたら、とうとうこの子がなめて鼻がのうなったで、また、何かなめんやなもんでなおいてもらわれせんかな」と言うと、
「さあ、何でなおしましょうかな。ここに蝋燭(ろうそく)がああけん、それでなおいちょきましょう」と鼻なおしさんは蝋燭でなおしてくれました。
 今度は鼻が出ると、子どもが着物の袖でちょっとこうなでます。そうすると右へなでると右の方へ鼻が傾くし、また、左へなでると左の方へ傾くしして、また、鼻がなくなってしまいました。
 それで、おまえたちも、鼻が出たときには、舌を出してこうなめてみたり、それから、着物の袖でさあっと、こう鼻をふいたりすつと、あのように鼻がなくなるから、あのようなことをするんじゃないよ。まあ、そればっかり。

解説

 これはまた変わった話であり、関敬吾『日本昔話大成』にも出ていない話型である。子どもの教育のために、当地で作られた微笑ましい話であろうと思われる。