風呂場の大黒さん(昔話)
語り(歌い)手・伝承者:浜田市三隅町芦谷 齋藤俊太さん・明治20 年(1887)生
昔、あるところに、うまいものが食べたくて仕事の嫌いな、たいへん怠け者の男がおりましたそうな。そのくせお金が勝手に寄ってくるようなことが好きなんです。
ところが、大阪の鴻池(こうのいけ)という家には金を吸いよせる大黒さんがいるので、これを迎えてきたら金もすぐ貯るだろう、一つ、この大黒さんを盗んでこよう。
男はこう思ってえっさえっさ鴻池へ行きましたそうな。
さて、到着してみると、鴻池は大きな家なので、どこに大黒さんがおられるのか分かりません。しかし、風呂焚きでもさせてもらっているうちに、どこかにおられることが分かるに違いない。そうすれば、その大黒さんを下げおろして、持って帰れば金持ちになれるだろう、こう考えた男は、旦那に頼みました。
旦那は、
「風呂焚きぐらいのことなら、これにも手間はいるんじゃけえ、さしてやろう。おってみるがええ」と言われましたので、その男は風呂焚きをしておりました。
なんと、思っていた大黒さんは、風呂場の棚の上に、まことに煤けた姿でおられましたそうな。
「や、これこれ。しめたもんじゃ」男はそれを降ろして、風呂敷に包んでおいてから、旦那に、
「どうでも、わしゃいんで来とうありますが、お暇をもらわれやしますまいか」と言いますと、
「そりゃ、いんで来たいちゅうことなら帰ってもええ。また来(こ)うと思や来(く)るいね」と旦那は答えられました。
暇をもらった男は、「しめた」と思って、足も地につかないように喜んで、大黒さんを連れてわが家へ帰りました。そして、
「かかあ、かかあ、大黒さんを連れてもどったけえ、これから金はなんぼうでも寄ってくる。まあこれで安心だ。地下(じげ)(集落のこと)の者をみな呼うで来い」。
さあ、酒を買うやら、肴を買うやら大変なもてなして祝いましたそうな。
ところが、いくら祝っても何日しても金は寄ってきません。男はそこで大黒さんをたたいて文句を言いましたそうな。
「あれだけ、わしゃぁ難儀して連れてもどったに、一文の金も吸い寄せん。なんとも粗末なやつじゃなあ」
ところが、大黒さんは、
「そりゃおまえ無理じゃあな、わしゃ風呂場の棚におってからに、始終、着物をはぐ方の大黒さんじゃけえ、わしをいくら信仰しても、そりゃ金が貯ろうはずはなあけえ」こう言いました。
怠け者の男は、まことに残念がりましたが、全然どうにもなりませんでしたそうな。
(昭和35年(1960)2月18日収録)
解説
この話は関敬吾『日本昔話大成』の中には登録されていない話である。怠惰を戒めるために人々が作りだしたものであろう。