河原雀の敵討ち(昔話)
語り(歌い)手・伝承者:仁多郡奥出雲町竹崎 田和朝子さん・明治40 年(1907)生
昔あったげな。
あるときに、河原(かあら)スズメが河原で子を生んだげな。そうしたら、鬼がそれを聞いてやって来て、
「河原スズメさん、河原スズメさん。おまえ、子を生んじゃったげな(生みなさったそうだ)が、おらに見せてごさんか(くれないか)。おら、あこ(赤ん坊)見に来たが」
「あ、そりゃまあ、よう来てごさっしゃった。それなら、まあ、見てごさっしゃい」
河原スズメが子どもを鬼の前へ出したら、
「ああ、こりゃぁいい子だのう。ほんにいい子だ。いい子だことはいい子だが、目が片細い」と言ってゴンピリ飲んでしまった。それから、また、
「まあ、もう一つ見せっさい」
「いやあ、おまえは飲んでしまぁてだけん(しまうから)やめた。出しゃあいけん。おら、子が無あなあけん(無くなるから)」
「いやあ、こんだ飲まあへんわのう(飲みはしないさ)」と言う。
「ほんなら、まあ一つ見てごさっしゃい」とまた出したら、
「やあ、こりゃぁいい子だ。ほんにいい子だのう。いい子だことはいい子だが、こらぁ鼻の穴がひとつ細いが」とゴンブリ飲んでしまって、それから、
「ま一つ見せっさい」
「へええ、おら、もう、一つょかおらんけえ出さん。おまえに出しゃあ飲んでしまぁてだ。みんな飲まれりゃあ、おら、子がおらんやになあけん、やめたわぁ」
そうすると、
「いやぁ、今度は飲まあへん。今度ぁ、そげなことすりゃあ、おまえ、子が無あなあけん、飲まへんけん」
「いや、ほんなら、おまえが飲んでだなけらにゃ出いて見せましょうか」
それから出したげな。
「いやあ、こりゃぁいい。どれんよりいい子だ。いい子だこたぁいい子だが、おまえ、こりゃあ片はら耳が無えがな」と、またグピッと飲んでしまう。
それから、
「さいならあ」と言って、どんどんどんどん帰ってしまったげな。
それから、河原スズメが腹を立てて、
「こりゃあ、かたき討ちい行く」とキビ団子をこしらえて、それをさげて、かたき討ちにどんどんどんどん行っていたら、マムシが道のへりから出たげな。それからそのマムシが、
「やあ、河原スズメさん、河原スズメさん。おまえはどこへ行かっしゃりゃ」
「おらぁ、鬼のところへかたき討ちに行かあかと思う」
「ああ、そりゃあ。おまえの持っておらっしゃあもんは何だかい」
「キビ団子だ」
「やあ、一つごさっしゃい。おらあついて行くけん」
「あ、ほんならあげえけん」
マムシはキビ団子をもらって食ってついて行くげな。だんだん行っていたら、今度はハチがおって、そのハチがまた、
「河原スズメさん、どこへ行かっしゃあ」
「いやあ、鬼のところへかたき討ちい行く」と言った。それから、そのキビ団子を、ハチももらってついて行く。それから、そうしていると今度は竹の棒がへりから出て、そのようにして竹の棒も団子をもらって食ってついて行ったげな。
それから、どんどん行っていたら、ドングリやくされ縄や臼やカニやクモなんかも出てきて、みんながキビ団子をもらってついて行ったげな。
そげして、鬼がおるようなとこへついて行って見たら、障子の穴からのぞいて見たら、鬼はちゃぁんと、いい火をたいて居眠りしていたから、それから、河原スズメが、
「なんとまあ、だれんもここへ寄ってごせえ(集ってくれ)。おらが言いことう聞いてごせえ」と言って、それから、
「まあ、第一番に、竹ん棒(ばあ)(竹の棒)さんはカマドへ上がってごさっしゃい。ドングリさんは、いろりのはたの土縁木(どえんぎ)の上へ上がっちょってごさっしゃい。そいから、カニさんは水の中へ入っちょってごさっしゃい」
河原スズメは続けて言ったげな。
「マムシは味噌桶の中へ入っちょってごさっしゃい。牛の糞(くそ)は戸口はいりがけ(入り口)におってごせえ」と言う。
それから、
「臼さん、おまえはくされ縄さんにさばって(つかまって)、戸口のそら(上)におってごせえ」。それからクモには、
「おまえは玄関口へ早ことクモん巣をかけてごさっしゃい。赤んバチつぁんは、後ろ口におってごさっしゃい。から、あの、だれんもそこそこに行ったら、おらが手え振うけんそげすりゃあ(そうすれは)、竹ん棒さん、ああに(あっちに)、ちゃあんと待っちょって、ドングリさんは、ぽういと、そのええ(良い)火の中へ跳んでごさっしゃい。竹ん棒さんは、上(そら)から、ぐわらあぐわらあ、いろりの中ぁ混ぜでごさっしゃい」と言ったげな。
それから、ちゃんとだれにも役割をしてから、今度は河原スズメが手をふったげな。
そうしたら、ドングリはぴょうっと、いい火のあるところの中へとんだげな。
そして竹の棒がかまどから、グワラァグワラァいろりを混ぜたら、パツーンとはじけて鬼の背へ火の粉がえらぁいほど跳んだそうで、
「やあれ熱いなぁ。火傷(やけど)けどにゃ味噌とやれ、早、早あ」と言って、味噌桶の中へ行って味噌を出そうと思って、ちょういと手をつっこんだら、マムシがガーンズリかんで、
「いやあ、こりやぁ痛ぁていけんわ。早、マムシがかみゃあ水の中へ」と言って水の中へ手をつけたら、カニがズーンガリつめって、
「いや、こりやいけん。ここじゃあいけん、後ろ口ヘじょう(出よう)」と思ったら、赤んバチが来て、プーンと言って飛んで来て刺したげな。それから、今度は、玄関口へ出ようと思って出かけたら、クモの巣が顔へいっばいひっついて、目が見えんようになって、
「こりゃあいけん。ま、こっちい出られんけん、こっちい行かにゃいけん」。
戸口へ出ようかと思ったら牛の糞を踏みつけてしまいズーツとすべって転んだら、上からくされ縄が、手を放したそうで、ストーンと臼が落ちてきて鬼を押えつけて、そこへ河原スズメが行って、鬼の首い切って、かたきを取ったげな。それ、昔しこっぽし。
(昭和47年(1994)5月6日収録)
解説
河原スズメというのは、セキレイの地方名であり、『島根県方言辞典』(島根県方言学会)にもちゃんと出ていた。関敬吾著『日本昔話大成』で戸籍を調べると、動物昔話の中に「雀の仇討」として出ているのがそれである。これで見ると、助太刀に現れるのはドングリ、針(ハチ、ムカデ)、カニ、牛の糞、臼などであり、おおむね田和さんの話に符合するが、クモ、竹の棒、くされ縄は田和さんの話にはあっても、関敬吾博士の分類の中には登場してこない。そのようなところに地方色を認めることができる。また、「サルカニ合戦」や「サルの夜盗」などの話とも交錯してしているのである。