幽霊封じの千人坊主(昔話)

語り(歌い)手・伝承者:江津市桜江町谷住郷  島田朝子さん・大正12 年(1923)生

 昔、幽霊の出るという大きな古い寺があったそうな。 日本全国から、坊さんを千人ほど集めてお経を読めば、幽霊は出なくなるということになったが、どうしても一人、坊さんがたりません。いよいよお経が始まるというようになっても、どうしてもたりませんので、裏山に来ている木樵りを雇うてきて、お坊さんにしてしました。
 そしたら、千人の坊さんの中で、この木樵りだけ、たった一人、違うお経を読んでいます。それは、

 〽ワ-シャ、コ-レノ- 背戸ヘコ-ソ
  藤葛(ふじかずら)立テコソ 行キタリ
  千人坊主ノ タ-リ-カ-ニ- ショウトテ-
  頭巾脱ギャ 毛ガデ-ル ………」

 こういうように自分のことばかりをお経に読んでおられましたが、とうとう幽霊、恐ろしくなったのでしょうか、出なくなったそうです。
 はい、ぽっちり。

(昭和46年(1993)8月18日収録)

解説

 石見地方の昔話の結句である「ぽっちり」を使って語られているところから、語り手は昔話を意識しておられることだ分かる。しかし、関敬吾『日本昔話大成』にはない単独伝承型の昔話と理解すればよいように思われる話である。