猿の一文銭(昔話)

語り(歌い)手・伝承者:仁多郡奥出雲町大馬木  千原貞四郎さん・明治21 年(1888)生

 とんと昔があったげな。
 ある所におじいさんとおばあさんが猫を一匹飼(こ)うちょられて、そいから、猿の一文銭をその家に持っておられて、その一文銭ほたんすに入れちょきゃあ着物がたくさんになあし、米びつに入れちょきゃあ米がたくさんになあ。財布に入れちょきゃ、おかねがたくさんになる。ああ、重宝(ちょうほう)なもんで、勝手え良かったもんだども(ものだけれど)、隣のばあさんがそれを聞いて、
「あれえ、つうとがなかい(ちょっとのあいだ)貸してくれえ」
「いやいけん。貸せん」、つうたども(と言ったけれども)、
「まあ、つうとがなかいでいいけん」
  そうから貸してやったら、げえ、
「なくなった」言いて返してくれん。そからあ(それから)、もうお米もなくなる。猫に、
「おお、隣のばあさんが一文銭をだまいて取ったけに(から)、おまえ、よう養ってやらんけに、おまえほどっこなと行け」、つうて猫に言いたげな。
 そげすうと、猫が久すう(長いあいだ)考えちょったが、そうから出て隣の家へ行きたげな。
 そして、隣の鼠いくわえ、
「おまえほのう、このおばあさんがタンスの中へ一文銭を入れちょうけに、あれえ、タンスをかじって、出いて持って来(こ)にゃあ、おまえを食うてやる」。
 それから放いちゃったら、鼠が、ガリガリガリガリ、タンスの底から穴ぁあかいて、から(それから)、一文銭を出いて、持って来て、へいかあ(それから)、それを猫がもらって持って戻った。
 で、猫もまた養ってもらったげな。
 そうでむかしこっばし。

(昭和47年(1994)8月2日収録)

解説

 「昔話の型」でいえば、「本格昔話」の「呪宝譚」の中に「犬と猫と指環」として出ているのが、これに当たります。

  165 犬と猫と指環(AT560)
 1、貧乏な男が蛇(猿・魚)を助ける。親蛇(親猿・竜宮の姫)に指環(玉・延命小槌・財布・杖・一文銭)をもらう。2、彼はそれによって金持ちになる。妻をもらい、番頭をやとう。3、(a)女房(番頭)が指環を盗んで逃げる。または(b)女房が怪しんで指環を売る。4、男はもとの貧乏になる。5、飼い犬と猫が恩を感じ川を渡って探しに行く、(a)猫が鼠をとらえて指環をとらせる。(b)猫が指環をくわえて犬の背にのって渡る、途中で猫が魚をとろうとして指環を水中に落とす。(c)蟹、河童にとらせる。指環をのんだ魚を捕える。6、指環は再び所有者にかえる。(犬と猫は功名争いをしてそれ以来仲が悪くなる)。

この話では、裕福を招く力を持つのは「猿の一文銭」であって、指環(指輪)ではありません。そして、主人公の家にあったその一文銭を隣のおばあさんに盗られたところから話が始まります。また、飼い猫は出て来ますが、犬は登場しません。このように話の展開も「昔話の型」からはかなり離れた形になっています。
 このように全国的に同じような話が伝えられているとはいっても、地方によっていろいろに変化しているところが、おもしろいですね。