トシトコサマの由来(昔話)

語り(歌い)手・伝承者:鹿足郡吉賀町椛谷  大田サダさん・明治30 年(1897)生

 わたしのおじいさんのそのまたおじいさんの昔からあった伝えですが、それは「人に飲まし食わしを惜しゅうじゃあ、その家に福が来ん」ということです。
 トシトコさまは片足の神様で、居間の神棚に片足の草履をあげるものとされています。どうしてトシトコさまが片足しかないのかといいますと、それには次のようなわけがありました。
 昔、ある家のおばあさんが昼前に味噌をすっていましたら、神棚におられたトシトコさまが、
「やれ来い。今ごろ飯がはなわるけえ(準備ができるから)、早う来いよ」と言って人を呼んでいました。それを見たおばあさんが、
「こんな外道が、いつもいつも人を呼おでこれ(この家)の飯ゅう食わす。これは貧乏になる。これにはそねいに人に食わする米はなあ」と言って、トシトコさまに味噌をすっていたレンギを放りかけたら、トシトコさまの足に当たって折れてしまい、片足になられたそうです。
 それ以来、そこの家は一方から貧乏になって行き、人も来んようになって全滅してしまったといわれています。
 そういうことだから「人に飲まし食わしを惜しんだりして欲を言うちゃあいけん。人に食わするほどはこの家にあるの」と昔のおじいさんは言っていました。わたしはよく聞かされていたものです。

(昭和38年(1963)2月2日収録)

解説

 トシトコさんというのは、正月に来臨する神様で、正月が過ぎれば去って行かれるとするのが大方の考え方である。また、このトシトコさんは、別に「歳神」とか「歳徳神」とも呼ばれている。そしてこの神は農村では農業神、漁村では豊漁の神と信じられている。。そのようなおり、大黒柱に藁で編んだワラジとか草履が片一方だけ下げられていた。それはこのトシトコさんが片足だからそうしていると言われ、各地で独特な説明がなされているのである。