下駄隠しノーリンボー・鬼遊び歌(隠岐郡海士町宇受賀)
語り(歌い)手・伝承者:宇野和枝さん(昭和13年生)
下駄隠しノーリンボー
橋の下のネズミが
草履をくわえて
チュッチュク饅頭は
だれが食た
だれも食わせぬ
わしが食た
表の看板 三味線で
裏から回って三軒目
(収録日 昭和48年(1973)5月11日)
解説
戸外で遊ぶ子どもたちの遊びの一つに「履き物隠し」がある。この歌はこうしてうたいながら、鬼を決めてゆくものである。
ところで、これは「下駄隠し」としてうたい出されているが、少し後で「橋の下のネズミが、草履をくわえて…」となっており、元々は出だしも「草履隠し…」であったことをうかがわせている。そこは子どもの素朴な知恵のおもしろさであろうか、「頭隠して尻隠さず」の諺通り、最初の詞章は下駄に変えても後の詞章には無頓着で、そのまま「草履」とうたっていたのである。つまり、この歌は子どもたちの履き物としてわら草履が一般的に幅を利かせていた時代、創作されたのであろう。その後、履き物は下駄になり、現在は靴に変わっている。この歌はたまたま下駄が普通となった時代に、自然に改作されたものであろう。
現在のところ、その事例を筆者はまだ持っていないが、当然、その後「靴隠し…」と歌い出される歌が出現してしかるべきであると考えている。
さて、古形をとどめる歌ならば、いくつか収録しているので、少しあげておく。
まず鳥取県江府町御机のものである。
草履隠し チューレンボ 橋の下の子ネズミが
草履をくわえて
チュッ チュク チュ
チュッチュック饅頭は
だれが食た
だれも食わないわしが食た
表の看板 三味線だ
裏から回って三軒目
一 二 三(別所清子さん・昭和28年生)
この歌は、かなり以前からうたわれていたようで、もっと年代の古い方からもよく聞かされた。鹿野町大工町の場合。
草履隠し クーネンボ
橋の下のネズミが
草履をくわえて
チュッ チュッ チュッ
チュッチュック饅頭は
だれが食た
だれも食わないわしが食た
表の看板 三味線屋
さあ さあ
引いたり 引いたり(竹部はるさん・明治31年生)
なお、これでは「表の看板、三味線屋」となっているが、先に挙げた「三味線で」とか「三味線だ」という形よりも、歌の流れも自然であり、類歌にはそうなっているのも多い。島根県では江津市波積町南本谷や浜田市三隅町福浦などで聞いている。筆者はこの方が原型であろうと考えているのである。