お月さんなんぼ・手まり歌(江津市波積南)

語り(歌い)手・伝承者:嘉戸幸子さん(昭和5年生)

お月さんなんぼ 十三ななつ
まんだ年若いな
油買うて進じょうか
油はジンジ
灯心(とうしゅみ)買うて進じょうか
灯心ジンジ
ジンジの中で 子を一つもうけて
だれに抱かしょ お千に抱かしょ
お千はいやだ
お万に抱かしょ
お万出雲へ花見に行った 
花は何花 桜花
一枝こげば パッと散り
二枝こげば パッと散り
三枝の境(さかえ)で日が暮れて
上(かみ)の小屋へ泊まろうか
下(しも)の小屋へ泊まろうか
中の小屋へ泊まって
ねんねんよい子だ ねんねしな

(収録日 昭和35年10月2日)

解説

 ずいぶん長い「お月さんなんぼ」の歌である。それもそのはず、この歌はいつの間にか「花は何花」から後半に、別な歌がひっついてしまっている。
 たとえば、隠岐の五箇村山田で聞いた子守歌に次のものがある。

ねんねんころりや おころりや
坊やはよい子だねんねしな
坊やが寝たまに餅ついて
べんべの子に負わして
子ども衆(しょ) 子ども衆 花取り行くまいか
花はどこ花 桜花
一枝折っては ばんとだち
二枝折っては ばんとだち
三枝の先で日が暮れて
宿を取ろうも宿はなし
下の紺屋で宿とって
寝ござはせわしい夜は長し
暁明けて空見れば
空のだんではどうが鳴る
下のだんでは鐘が鳴る
ねんねんや おころりや
(長谷川美代子さん・大正9年生・石橋八重子さん・大正12年生)

 こうしてみれば江津市のものは、二つの歌がいっしょになったことが分かる。
 オーソドックスではない歌をいきなり紹介してしまったが、わらべ歌はときおり、このように二つ以上の歌が離合集散して、一つになる場合のあることを、これを機会にご理解いただきたい。
 ところで、この歌が邑智郡や大田市などに伝わる類歌の傾向を持っている証拠に、大田市川合町吉永の歌をあげておく。

お月さんなんぼ 十三ここのつ
そらまんだ若い
油買うてあぎょうか
灯心(とうしゅみ)を買うてあぎょうか
灯心もジンジ 油もジンジ
ジンジの中で 子を一つもうけて
お千に抱かしょか
お万に抱かしょか
お千もお万も芋掘り行って
芋の虫にかまれて みな死んだ
(酒本 清さん・明治39年生)

 このように油や灯心がジンジと燃える表現の共通しているところが、この地域の特色なのである。同じ石見地方でもまだまだいろいろな違いはあるが、少し長引きすぎたので「お月さん」シリーズはここらで終止符を打つことにしたい。