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おりゅうの柳

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おはなし

語り手 鳥取県智頭町 大原 寿美子さん(明治40年生)

おりゅうの柳 昔あるとき、高山いうところに、おりゅうといってまことに器量のよい娘があったのだそうな。
 そうしたらまあ、高山を越えたところに大きなよい家があって、そのうちに女中に行っとったのだそうな。その高山の尾根に大きな柳があって、その柳の性が、おりゅうがあんまり器量がよいものだから惚れてしまって、人間に化けて、毎晩、髪をきれいに結って、おりゅうに会いに行くのだそうな。そうするとおりゅうもまた高山の尾根の柳に会いに行くしして、そうしてあっちこっち心を交わしあっていたところ、年がたって、おりゅうがその高山の峠を越えて家に帰っていても、お互い毎晩会いに行くししていたそうな。そして、それでも事情があって行けないときには、大きな風が吹いて、その柳の胴幹の声やら音やらが聞こえたり、何とか木の葉が飛んできたりしたり、とにかく、まあ、毎晩のようにそうして心を通わしていた。
 ところが、ある日の晩、たいへんにいい男の侍が非常に青ざめておりゅうのところへ来たそうな。
「まあ、おめいは何ごとじゃ。今日はひどうずっと青ざめて、もう生きた顔じゃないなあ」
「うん、まあ、これまで親しゅうに毎晩会うてきたけど、今夜がしまいのような」
「そりゃどんなこってすじゃ」
「いんにゃ、これでもう会えんも知らん。もうこれが終わりじゃがよう」。
ーどんなこっちゃろうなーとおりゅうも思っていたところが、そのころ、京の三十三間堂の普請が始まっていたけれど、
”その三十三間堂の棟木は、杉でも桧でもない。高山のあの柳でなけにゃあ、することができん”ということになった。三十三間堂の棟木は差し渡しが八丈で、丸さが八丈まわっているが、それはあの高山の柳でないと間に合わないということになったのだそうな。
 やがてのこと。その柳を伐るのは、一人や二人の杣さんではどうにもいけないので、あっちからもこっちからも杣さんの上手だといわれる人は、みんな呼んで来て、そしてその杣さんが、鋸で一日中柳を挽き伐ったけれども、とてもその柳が伐り倒せないので、
「また明日の仕事じゃ」と言ってはもどり、また、
”今日もすんだ”と思って行ってみるところが、その柳の幹はぴんと元どうりになっているのだそうな。
「これじゃあ困ったもんじゃ。一日かかってこれだけ伐って、ちゃんとして、まあ明日で残ったのを伐れると思うとるに、またまた元どうりになっとる。伐れるメドがない」と言っていたら、その杣さんの嫁さんが、
ーまあ、どんなこっちゃろうなあ。何とか伐らせてもらいたいーと神さんに一生懸命に拝んでいたら、思いがかなったのだろうか、そのうちに神さんが枕神に立たれて、
「杣さんが伐られる鋸糞も、コケラもなんにも、その場で大きな火ぃ焚いて、それをみんな灰にするじゃ。そうしたら、伐ることが出来る」と言われたそうな。それから、
「神さんがなあ、枕神に立たれたがよう」と言って、
「それじゃあ」ということで、そこで大きな火を杣さんの嫁さんが焚く。この杣さんの嫁さんもあの嫁さんも、みんな大きな火を焚いて、鋸屑もコケラも何にも焼いてしまって、そしてみんなが帰って、あくる日そこへ行ってみたら、昨日、柳を伐っただけは伐れてしまっていた。それで、「ああ、なるほど、これで伐れるぞ」と、みんなは喜んだそうな。
 それから、いよいよ神さんのお告げだと思って、また明くる日も明くる日もそうして、やっとのことで柳を伐ってしまった。
 そしてそれから柳を車に乗せて、おおぜいの人でその柳を京都へ運ぼうとしたのだそうな。そうしたところ、どうにもその柳が動かない。樹齢何百年もしている柳なので、いかに引っ張っても簡単には動かないのだそうな。そのうち、ある人が、
「こりゃあ、柳の性がおりゅうに好いとって、おりゅうとあっちいいこっちい逢い引きをしよったじゃけえ、そのおりゅうを頼むこっちゃ」と言って、そのおりゅうという娘に頼んだら、おりゅうは、
「わしの役に立つことなら行きます」と言って、京の三十三間堂の棟木を出すおりに、おりゅうが車の先頭になって綱を引いたら、柳を載せたその車はそろそろそろそろ京の三十三間堂まで無事に着いたそうな。
 だから、今あるあの三十三間堂の棟木は高山の柳だそうな。そしていつに変わらずに、今でもその通りあるそうな。そればっちり。


解説

 この話は昭和62年8月23日に語り手の大原さんのお宅でうかがったものである。人間と植物の精霊との恋愛が主題となっているが、なかなか収録することの難しい話種である。関敬吾博士の『日本昔話大成』による分類では、2種類の話にその戸籍が認められる。一つは本格昔話の「1 婚姻譚」として次のようになっている。

109 木魂聟入(AT442)
1. 母と娘、娘が毎日木に供物をする。
2. (a)殿様がその木を伐って船をつくるが、進水できない。または(b)大木を伐るが動かすことができない。
3. (a)殿様が船を進水させた者、または(b)木を動かした者には褒美をやるという。
4. その娘が進水させて褒美をもらい、母子が幸福な生活をする。

いま一つは本格昔話の中の「16 新話型」として次のものが相当する。

本格新40 大木の秘密
A 1. 不作で庄屋が木を伐ることにする。
  2. 小木ができたので伐採を延期してほしいと木が頼む。
  3. 庄屋は約束する。
  4. 翌年は豊作になる。伐採せずにすむ。
B 1. (a)堂をつくるために、(b)長者の病気の原因は水木という鳥の言葉を聞き、木を伐るが血が出るなどして倒れず、翌日は元通りになっている。
  2. 木同士の会話を聞いて塩水をかけたりすると木が倒れる。

 今回の昔話はどうしても戸籍は一つに確実にこれだと、絞りきれない。つまり、最初に紹介した「木魂聟入」の話では、後半部分の「(b)木を動かした者には褒美をやるという。4、その娘が進水させて褒美をもらい、…」のところがわずかに関連を示しており、また、「大木の秘密」の方でも、Bの方の後半部分「木を伐るが血が出るなどして倒れず、翌日は元通りになっている。2、木同士の会話を聞いて塩水をかけたりすると木が倒れる。」とあるところが関連しているのである。そして、この中で「木同士の会話を聞いて」云々に相当するのは、大原さんの話では、「(杣さんの嫁さんが)神さんに一生懸命に拝んでいたら、思いがかなったのだろうか、そのうちに神さんが枕神に立たれて…」となり、枕神のことばとなって話が展開して行くのである。


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