昔あるときに、高いところにお寺があって和尚さんと小僧さんがいたそうな。寺の後ろは大きな山があり、そこには大きな栗の木があって、風が吹くとその実がいくらでもぽたぽたぽたぽた落ちるそうな。それで小僧さんが、
「何でもまあ、栗拾いに行きたい」と言うと、和尚さんは、「鬼婆がおるけえ、この裏の方へは行かれん」と言うが、小僧さんがどうしても行きたいと頼むので、和尚さんもしかたなく、お札を三枚渡してやって、
「危ないおりには、これを頼むじゃぞ」と言って出したそうな。
小僧が行ってみると、たくさん大きい栗が落ちているので、それをいくらでも拾って食べていると、とても器量のいい小さな婆さんが出てきて、
「小僧さん、小僧さん、こっちへ来てみんさい。なんぼうでも栗があるわ」と言うので、おばあさんについて行くと、ほんとうに大きな栗がいくらでもあるので、拾って食べていたら、いつの間にか日が暮れてしまって、帰れなくなってしまった。そうしたら、おばあさんが、
「あそこに小さい家があるけえ、泊まって、明日の朝いぬるがええ」と言う。
小僧もしかたなくついて行くと、おばあさんは栗を作って食べさせたり、ゆでて食べさせたり、腹いっぱいになってしまった。小僧が眠たくなってきたら、おばあさんは布団を持ってきてくれる。疲れているのでぐっすり眠ってしまったが、夜中に小僧がふと目を覚ましたら、雨垂れが、
小僧や 小僧や 婆さんの面ぁ見い
小僧や 小僧や トンツラ トンツラ
と言っている。小僧はそれを聞いて、ひょいっとおばあさんを見たら、おばあさんはいつの間にか鬼婆に変わっており、頭には角が二本出ているし、口は耳まで裂けているし、さらに口からは紅のような舌を出している。
ー恐ろしや… やれこれーと思って、小僧は起き上がって帰ろうとすると、鬼婆が聞いてくる。
「何すりゃあ」
「便所へ行って、小便が出したい」
「小便が出したけりゃ、そこへひれ」
「こんなとこへは、もったいのうてひれん」
「ほんなら、まあ、行け」と言って、鬼婆は小僧の腰に綱をつけて便所に入れ、外で待っている。
小僧は恐ろしくなって、和尚さんにもらったお札を一枚出して綱にくくりつけ、お札に、
「『まんだ出る。まんだ出る』言え」と頼んで、窓からとんで出て一生懸命に逃げたそうな。内では、
「まんだ出んだか、まんだ出んだか」と鬼婆が言えば、
「まんだ出る。まんだ出る。まんだ出る……」とお札が言うが、あんまり長くて不思議に思った鬼婆が、開けてみたらお札に綱が結びつけてあり、そのお札が言っている。
「こりゃまあ、いけん、ほんにほんにだまされたか」と追いかけたところ、鬼婆は足が早く、もうほとんど追いついたかと思ったとき、小僧はもう一枚のお札を後ろへ投げて、
「砂山出え」と言ったら、とても大きな砂山ができたそうな。鬼婆がその山に上がると滑って落ちる。上がるとずるっと落ちる。なかなか上がれなかったが、それでもやっと上がって向こう側へ下り、また小僧さんに追いつきかけたところ、小僧さんは最後のお札に、
「大きな川を出してくれ」と頼んで後ろに投げたら、また大きな川ができて、鬼婆はその川がなかなか渡れなくて、あっちへ行ったり、こっちへ行ったりしているうちに、小僧がやっと寺へ帰ることができたそうな。それで、
「和尚さん、今もどった。和尚さん、今もどった」と言ったけれど、和尚さんは知らん顔をしていてなかなか戸を開けてくれない。
「今、鬼婆がここを通りかかるけえ、早う早う」言って、戸をやっとのことで開けてもらい、小僧さんは大根壷の中に隠してもらい、和尚さんはその蓋をピシャンと閉めたとき、鬼婆がやっと川を渡り終えてごとごと入ってきたそうな。
「今、ここへ小僧が入ってきたふうなが、小僧はどこへおりゃあ。」
「ふん、小僧は来りゃあせん」。和尚さんは、そう言いながら囲炉裏にいっぱい餅を焼いて食べていたそうな。
「おお、何ちゅううまそうな餅じゃ、うらにもそれえ一つ呼んでごせえ。餅は大好物じゃ」
「うん、そりゃあ呼んだる、呼んだる。そげな餅どもはうちゃ何ぼうでもあるけえ。それより先、おまえもこがいな鬼婆いうぐらいのもんじゃけえ、化けることはできよう」
「うらも化けるし」
「そんなら、おまえから先化けてみい」
「ほんなら先、化ける」
「高つく、高つく、高つく、高つく………」。
和尚さんがそう言われていると、鬼婆は高くなって天井までつかえてしまい、もうそれ以上は高くなれなくなったので、今度は、
「低つく、低つく、低つく、低つく………」と言っていると、本当に小さくなって豆ぐらいになってしまったそうな。するとそれを見ていた和尚さんは、焼けて熱くなった餅を二つに割って、その豆ぐらいになった鬼婆を、餅の中にぴっと挟んで入れて、自分の口の中へ放り込んでがきがきがきがき噛んで、食べてしまったそうな。
それからは鬼婆は出ないようになったとや。そればっちり。 |