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閻魔の失敗

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おはなし

伝承者 佐々木誓信さん 明治25年(1892年)生

昔々、軽業師と歯医者さんと山伏と三人が死んで閻魔(えんま)さんの前に引っ張り出されまして、取調べを受けております。 まず、山伏から引っ張り出されまして、
「ええ、その方は人間の世間におるときには、はあ、大きな法螺(ほら)をブウブウ吹いて、子どもを恐らかしたから、おまえは地獄へやってやる」。
 閻魔さんが言いますもんで、これはもうしかたなかろうと思って、山伏は地獄の方へ行きました。
 その次は軽業師さんです。
「おまえも生きておるときに、妙なことばっかりしてからにお金を取りよったから、その罰におまえも地獄じゃ」。
 これも因果を決めて地獄の方へ行きました。最後は歯医者さんです。
「これもやはり、人を痛い目に合わして高い金を取ったから、おまえも地獄じゃ」。こういうしだいで三人がみな地獄へやられました。
 そうして、鬼が言いますには、
「閻魔さん、閻魔さん、この三人の者をどう処分してやりましょう」。
「あれは悪いやつばかりじゃから、ひとつ、熱湯の中へ追い込んでやれ」。
 それから、大きな釜へグラグラグラグラと湯を煮て、三人を連れて行き、その釜の中に鬼が金棒を使って三人を投げ込みました。
 ところが、山伏は水の印を結ぶというと、煮え湯が少しも熱くはありません。三人の者が、
「ああ、これはええ燗(かん)の風呂じゃ、ちょうどええ、まあ人間世界の垢を落とそうかい」というので、バシャリバシャリ湯を使っております。
 それから、赤鬼が真っ赤になって怒りまして、
「閻魔さん、申し上げまぁす。三人のやつはいっこう熱うないらしゅうござんして、ちょうどええ燗の風呂じゃちゅうて垢を落としておりますが、どうしてやりましょうか」
「うん、それはなかなかけしからんやつじゃ。それならば引っ張り上げて、針の山へ追い上げてやれ」
「はいっ、承知いたしました」。それから、赤鬼は今度は青鬼を連れてきまして、
「おい、おまえもテゴ(手助け)してくれ。こなやつらはなかなか征伐が難しい」
「こら、こっちぃ来い」というので、それから山のところへ連れて行きました。その山を見るというと、大きな針や小さな針がいっぱいに草が生えたように生えております。
「そおら、この山へ登れ」
「登るか、登らんか」。こう言って鬼たちが棒をふり上げて追って行きますので、例の軽業師さんが軽業の術を使って、その山にある一本松へピョコッピョコッと三人を、みな登らせてしまいました。
「あ、ここまでおいで、甘酒進じょ」。松の木の上で呼んでおります。鬼はまた怒りまして、
「わあ、ブルブルブルッ、けしからんやつじゃ。閻魔さん、閻魔さん、これはけしからん。『ここまでおいで、甘酒進じょ』と木に登って呼んでおります。しゃくにさわりますが、どうしてやりましょう」
「ううん、そうか。それならばしかたがないから、おまえが口の中へ入れて噛み砕いて飲んでしもうてやれ」
「はいっ」。
 それから、鬼が三人の前へ行きまして、
「こら、ちょうしとれ(ちゃんとしていろ)」。こう言って大きな口を開けて、三人を口の中へ入れましたところが、今度は歯医者さんが、歯の抜ける薬を二人の者に分けてやって、三人連れでその薬を鬼の歯の根元へシュッシュッシュッシュッと、一生懸命にすり込みました。そうしたら、鬼の歯がボロボロボロッとみな抜けてしまって、いくら噛んでも三人の者は死にません。そこで鬼は、
「閻魔さん、閻魔さん、どうしましょうか。三人の者は死にません。その上、わたしの歯がみな抜けました」
「そんならしかたがないから、おまえ、丸飲みにせえ、丸飲みにせえ」。
 それから、鬼がクッッ、クッッ、クッッ。目をパチパチとさせて飲み込んでしまいました。
 さて、三人が鬼の腹の中へ入ってみますと、そこはなんと広いとも広いとも………。そして、軽業師が言いますには、
「おいおい、あの下の綱に引いてあるのは何かい」。歯医者さんが答えます。
「うん、あれか、あれは鬼の腹の中の血管というもので、あの筋を引っ張るというと、鬼がシッコがしとうなるんじゃ」
「はあ、そうか。それはおもしろいな。その隣のは何か」
「あれは………あの綱を引っ張るというと、鬼が屁をひるんじゃ」
「ああそうか。それはおもしろいな」
 上をあお向いて見ましたら、今入ってきたところの喉の穴の隣に小さい穴が二つあります。
「小さい穴が二つあるが、あの穴は何じゃろうか」
「あれか、あれへ伝うておる綱ぁ引っ張るちゅうと、鬼がヒャクショ(くしゃみ)するんじゃ」
「そうか、こりゃあおもしろいぞ、おもしろいぞ。おい、三人一緒に引っ張ってみようじゃないか」
「いいかあ、一、二、三」。一緒に引っ張りましたところが、鬼が苦しみます。

 ヒャクショ ヒャクショ ヒャクショ
 ブ−ッ ブ−ッ ブ−ッ
 シュッ シュッ シュッ

「もういっぺんやれ」
「一、二、三」

 ヒャクショ ヒャクショ ヒャクショ
 ブ−ッ ブ−ッ ブ−ッ
 シュッ シュッ シュッ

 ヒャクショ ヒャクショ ヒャクショ
 ブ−ッ ブ−ッ ブ−ッ
 シュッ シュッ シュッ

 ヒャクショ ヒャクショ ヒャクショ
 ブ−ッ ブ−ッ ブ−ッ
 シュッ シュッ シュッ………

 本当に鬼は閉口しまして、それから、とうとう三人を吐き出してしまいました。
 鬼があんまりひどく吐き出しましたものですから、その三人が飛んで来たところは、元の人間世界で、それぞれ死んだところへ帰ってきたのだそうです。


解説

 これは「閻魔の失敗」といわれている昔話である。語り手の佐々木さんは三隅町福浦の光円寺の住職で、昭和35年5月にうかがったおり、68歳だった。
 話の内容は死んで地獄にやられた三人が、生前の職業で培った技術を生かして、閻魔の攻め苦に対抗する。まず、釜ゆでの刑を逃れ、次いで針の山で楽しみ、困った閻魔が鬼に命じて三人を飲み込ませると、彼らは鬼の腹の中で暴れ回って鬼たちを手こずらせる。その結果、鬼が苦しがって彼らを人間世界へ吐き出してしまい、三人は生き返ってしまうというのである。もともと死から逃れられない運命にある人間であるだけに、この話は「死から逃れたい」と思う願望が作りだしたものということができるようである。
 なお、これに似た話で森脇太一著『江津の昔ばなし』(昭和48年・自刊)に次のものがある。梗概を紹介しておく。

 彦八が死んで閻魔の前に行った。「お前は娑婆で何をしていたか」「おもしろい話をして人を楽しませていました」「いつも人をだましていた。地獄へ行くより仕方がない」と言われたが、閻魔におもしろい話を聞かせることになる。彦八は「装束をつけ、高い台に上がらなければ話されません」と閻魔の着物を借りて台に上がって話す。地獄から鬼が出て来る。彦八は台の上から閻魔を指さして「罪人はそこにいる」と大声で叫ぶ。鬼は閻魔を捕まえて地獄へやる。彦八は閻魔になり、おもしろい日を送り、罪人にもやわらかであるという。

 もちろん、前者と比較すれば、彦八の方は娑婆へ帰って来る三人とは違い、そのまま死者の世界に残るのではあるが、最初、閻魔から地獄行きを命じられる点と閻魔を困らせるところは微妙に共通しているのである。


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