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ネズミ経

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おはなし

語り手 隠岐郡隠岐の島町中里  半田弥一郎さん・明治45年(1912年)生

 とんとん昔があったげな。奥山のずっと山奥に一軒家がありました。そこにはおばあさんが一人で住んでいました。旅回りの坊さんが、日が暮れてそこへたどり着き、そこで泊めてもらうことになりました。
 おばあさんは栗で作ったお粥などを坊さんに食べさせて、その晩は坊さんの話を聞いたりしておりました。そのうち、おばあさんはふと思いついて、坊さんに、
「わしも仏さんを拝むことを知らんので、今夜はぜひお経を教えてごさっしゃいな」と頼みました。
「そりゃ教えて進じるだ」と坊さんは答えましたが、じつはその坊さんは偽者で、お経を読むことは知らなかったのです。
ーはて、どう言わいいかいなー。偽の坊さんはそう考えていましたら、ちょうど庭の隅からネズミがチョロっと出て入りました。
ーはは、こりゃいいものが出てきたわいーと思っていましたら、ちょっとそこで止まりました。またしばらくすると、そのネズミがチョロチョロと歩きました。
 そこで坊さんは、このことをお経に読みました。

  ひょろひょろござった
ひょろひょろござった
はいつくぼった
ひょろひょろござった
ひょろひょろござった
はいつくぼった
はいつくぼった

 これを繰り返し繰り返し、坊さんが言いました。
ーこりゃ言いやすいお経だ。こりゃぁなん ぼうでも覚えることができる。ー
おばあさんは、それをしっかり覚えたので、毎晩毎晩これを唱えておりました。
ある晩のこと。盗賊がおばあさん殺してお金を盗ってやろうとその家へ近づいて来ました。そうしたら、おばあさんが仏さんの前に座って、
「ひょろひょろござった」。こう言いいます。盗賊が驚いて、
ーばあさんは、わしの来たのを知っている かいなー。そう思って、あわててしゃがむと、また、おばあさんが、
「はいつくばった。はいつくばった」と言います。歩きかけると、
「ひょろひょろござった」。また止まって四つんばいになると、
「はいつくばった。はいつくばった」。盗賊は、
ーどうもばあさんは、わしの来たのを知っとる。こらま、ばあさんが寝るまで待っておりましょうーと、屋根の庇(ひさし)へ上がってしばらく待つことにしました。そうしているうちに、雨がしょぼしょぼと降ってきました。しかも今度は大きい狼が、
ーばあさんを噛んでやらぁーと思ってやって来ました。
「ああ、ひょろひょろござった。ひょろひょろござった」。
狼が驚きました。
ーこらまぁ、このばばは、わしの来たことを知っとるー。
しゃがむと、
「はいつくばった。はいつくばった」
ーこら、わしが止まると「はいつくばった」て言う。このばばめは不思議な力を持っちょるぞ。こらちょっと噛めんかも知 らんー
間もなく、すごい雨になりました。おばあさんの家の屋根が悪くなって雨漏りがするので、おばあさんは早速盥(たらい)やバケツを持って来て雨漏りのする方へ当てながら、
「獅子(しし)、狼より雨の漏り殿が一番恐ろしいわい」と独り言を言いました。狼は、
ーわしよりも恐ろしいものが世の中におる。その雨の漏り殿ってどういう者かなーとちょっと考えているとき、屋根にいた盗賊は雨がかかって大変なので、下へ飛び降りました。それがちょうど狼の背中の上でしたので、狼はいよいよびっくりして、
ーこりゃ雨の漏り殿が背中の上に降りてきたとこだ。こりゃ大変だーと逃げだしました。
盗賊は盗賊で、
ーなんか妙な大きな者の上に降りたもんだな。こりゃばあさんが仏さんを拝んでおるもんだけ、仏さんの力でこういうもん を呼び出せたのじゃろうー
こう考えて、これまた急いでわが家へとんで帰りました。
おばあさんは盗賊にも殺されず、狼にも噛まれずすみました。それというのも、偽の坊さんから教えてもらったお経を、本当のお経と信じて拝んでいたため、仏さんはちゃんとおばあさんを助けてくださったのです。
スットンカラン。


(昭和57年7月27日収録)


解説

 県立隠岐島前高校郷土部が都万村の民話調査を行ったおり、それならばと前もって録音して準備してくださったものの一つである。
 この話は、かなり有名なものなので、皆様もどこかでお聞きになったであろう。



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