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産神問答(昔話)

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おはなし

語り手 仁多郡奥出雲町大呂  安部イトさん・明治27年(1894年)生

 とんとん昔があったげな。
 鳥上みたいなところ(仁多郡横田町鳥上地区のようなところ)があったげな。
 そこのある家のお母さんは妊娠しておったげな。お父さんはちょっと急用があってアビレ(阿毘縁↓鳥取県西伯郡日南町阿毘縁地区。鳥上地区の隣の地区である)みたいなとこへ行かねばならんことになったげな。
 それで夕飯を食べ終わるとすぐにお父さんは出かけたげな。
 そうだども、阿毘縁の峠のあたりでたいそう眠くなったそうで、それでお父さんはサイ(塞)の神さんのお宮へ寄って、
「サイの神さん、サイの神さん。阿毘縁へ行かぁと思いますだども、あんまぁ眠たぁなったけに、ちと、宿貸しぇてごしなはい(貸してください)」と言って泊まっておったげな。
 そうしたら、阿毘縁の方のサイの神さんがスジ馬に乗ってジャンジャンジャンジャンやって来て、
「サイの神さん、鳥上の方に産気がついたけに行きましょうず」と言ったげな。
 阿毘縁峠のサイの神さんは、
「やあ、今晩はお客さんがあって行かれんけに、おまえさん、行きて、また安産さしぇてやってください」と言ったげな。
 それでサイの神さんが、鳥上みたいなところへ行って、安産をさせると、いい男の子が生まれたげな。
 そうするとそのサイの神さんはまた帰ってきて、
「やぁあ、いま、安産さしぇて帰りましたが、かわいそうなもんですわ。蛇体の餌食に当たっておって、二十歳になぁときに蛇体に取られて呑まれにゃならの生まれつきですわ」と言って帰って行かれたげな。
 そうすると、泊まっておったそのお父さんは、その話声を聞いて、
-はぁあ、うちのことかなあ-と思って悪い気がしたげな。
 そして、目を覚まして阿毘縁の方へ行って、用事を済ませて帰ってみたら、家ではよい男の子が生まれておったげな。
 それからお父さんは、その子が蛇に取られてはならないから、なんとか助けないといけないと思って、それには信心するよりほかにないと考え、神さんをしっかり拝んでおったり、ずっとお金を貯めておいて、その子が二十歳の若いもんになるまでに神さん参りをさせてやらなければいけないと思っておったげな。
 そしてその子が二十歳の若いもんになったら、心配してはならないから前の話は絶対しないように黙っておいて、それから、
「今年、おまえは日本中の高神さんに参宮してもどれ」と言って、若いもんを旅に出したげな。
 昔のことだから、いくらくらいか知らないけれど、その若いもんはお金をもらって出かけたげな。
 そうしてずうっと高神さんのところを参って、しまいには大阪の川口まで帰って来て、そこの宿屋に泊まったげな。そして、その晩は蕎麦でも食べようと思い蕎麦屋へ出かけたら、道中で大きな大きな大坊主に出会ったげな。
 その大坊主はその若いもんに向かって、
「お主は、どこ行きゃぁ」と言ったげな。
「わたしゃ、蕎麦屋に行って蕎麦を食おうと思っちょうだども、あんたも行きましょうや」と若いもんが言ったので、
「ああ、そうじゃぁ、ついて行かか」と大坊主もついて来たげな。そして蕎麦屋へ行って、
「今晩は、蕎麦打ってくれ」と言ったげな。
 そうしてその若いもんはその大坊主に、
「なんぼこっさえてもらいましょうか」と言ったら、
「一斗粉ほどこしらえてごしぇ」と言う。若いもんは、
-これはたいへんだなぁ-と思って、一斗粉ばかりこしらえてもらうよう頼んだげな。
 蕎麦屋はこねるやら打つやら茹でるやらして、一斗粉ほど蕎麦を出したそうな。
 そうすると、その大坊主はゾロゾロゾロゾロなんぼうでも食べて、その若いもんが一杯食べる間に十杯も食べて、ものすごくたくさん食べ、とうとう一斗粉ほど全部食べたげな。
 それから今度はお金を払うことになったら、大坊主は、
「おれが出すから」と言ったけれども、
「いいや、今夜はわしがご馳走しますから」とその若いもんがみんなお金を払ったげな。
 それから連れだって蕎麦屋を出て、別れるときにその大坊主が言うことには、
「おまえはなあ、おれの餌食に当たっちょって、今年、おまえを取って呑まにゃならの年だども、取って呑まぁとすうと高神さんが手ぇ出されて、おまえを避けちょられえので、おまえを絶対に呑ましぇてごさの。そうに今晩はおまえが蕎麦をおれにご馳走してごすなりしたけん。もう絶対おまえを呑まんけん。おまえはこうからいんで、また親孝行して世を送らっしゃいよ」と言ってどこかへ去って行ったげな。
 若いもんは、それから帰ってその話をしたら、お父さんが、
「ああ、その話のことだ。阿毘縁峠のサイの神さんに泊まっちょう時分に、そういうわけだった。だもん、今日まではそげなことは言わずに、旅の準備をしておって、おまえに旅をさせただが」と話されたげな。それで昔こっぽし。

(昭和45年7月27日収録)


解説

 鳥上中学校の生徒とともに安部さんのお宅へうかがって聞かせていただいた話の一つである。イトおばあさんは昔話をよく知っておられ、いつうかがっても自在に語ってくださる得難い話者だった。蛇の化けた大坊主の出てくるこの話もなかなか迫力に富んでおり、聞き手をはらはらさせながら物語は進んで行った。懐かしい思い出である。
 さて、関敬吾博士の『日本昔話大成』によれば、「本格昔話」の「運命の期待」の中の「産神問答」に戸籍を認めることができる。そして、この産神問答は四つの種類に分けられる。紙面の都合で詳しく書けないが、この話はその中でも「水の神型」と呼ばれているものであり、ここでは大坊主が蛇の化身であるが、もともと蛇なる動物は水神に関わりを持つ存在であることは、民間信仰の上で歴然たる事実である。
 今回の話は水神の生け贄に運命づけられていたはずの男の子であったが、父親の高神さんに対する熱心な信仰によって、運命を変えさせ、結局は息子の命を救い、長命を授かることになるというのである。


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